おまけの読み物その13 足を動かせるという感覚

2010.11.27

スキーヤーにはお馴染みの「ぼしきゅう」という単語。私のショボイPC環境ではまともな漢字変換をしてくれませんでしたが、そもそも手なのか足なのかによって「母・拇」、「指・趾」、「丘・球」の色々な組み合わせが世間では散見できたりして、いったいどれが正しいの?状態ですが、少なくとも医学的には「足のゆび」のことを表す場合、「趾」という字を使うのが普通だと思います。というかそう思っていましたが、ホントにあっているのか不安になってきた。まあいいや。

ただしこの「趾」という字は、あまり一般的に使われている字でもないと思いますのでここでは今後も手と同様に「指」の字を使っていきたいと思います。

 

今回のテーマはこの指も含めた足の動きについてです。

寒くて寒くて手の指がかじかんでしまいそうなときには、腕を大きくブンブン廻すと暖まります。多分遠心力によって血液が指先までよく行き渡るからだと思いますが、レッスン中などそうやって手を暖めてもらったら、ついでに

「足の指でグーチョキパーできますか?」

なんてことも聞いてみたりするのですが、その答えによって

  1. A. できるよん → ブーツ大きくないですか?と一瞬不安になるようなつっこみをとりあえずいれてみる
  2. B. グーとパーはできるけどチョキはむずかしい → あははそうですかあ、とその場は流す
  3. C. グーはできるけどあとはムリ → はだしのときにはできますか?と話を広げていく方向へ
  4. D. 冷たくてそんな感覚ないですぅ(泣) → 屋内に退避して休憩

と、まあこんな展開になったりすることもあるわけですが、実際に普段「足の指をどのようにどれぐらい動かすことができるか」にはかなり個人差があるようです。

 

普段家でゴロゴロしているときでも足の指だけはゴニョゴニョ動いている人は結構います。オーバーハングの壁を登っていくフリークライマーはいったいどういう足の指をしているのだろうと思ったりしますが、重たいものを持ち上げたりするときに足の指を踏ん張るとよく力が入ることを経験として知っている人も多いと思います。でも「じゃあ、あなたの足の指の力ってどれぐらい?」といわれても「???」ですよね。

通常体は動かせば動かしただけ動くようになると言われていますから、あまり足の指を動かせない人でも訓練しだいでかなり動かすことができるようにはなるはずです。まあ人間動かすことができるようにできているところは動かすことができるに越したことはないと思いますので、指を使ってしっかり地面を蹴るような歩き方を覚えるとか、お風呂に入って体がほぐれたときに広げてみたり動かしてみるとか、風呂上りにストレッチするとか、やってみて損はないと思います。床に広げたタオルを手繰り寄せるように動かすなんていうのもリハビリの光景としてよく見ますね。

 

そうやって足の指を動かしてみたときの様子をよく観察してみると、実際には動くのは指だけではないことがわかると思います。

手も同様ですが、例えば指を全部広げようとすると実際には足全体が扇型に広がりながら足裏が窪むような形になるはずです。次に親指だけを広げようとしてみると実際は親指を押し下げるような感じで前足部・足首まで含めて捻るような動きも段々入ってきます。足裏が外側を向いていく、いわゆる外反で通常は足首関節も曲がる方向に動きます。(脛の外側の筋肉が少し緊張してくるのがわかると思います)

逆に小指だけを広げようとすると、今度は足裏が内側を向いていく動きすなわち内反の動きが入ってくるとともに通常は足首を伸ばす方向の動きになります。

指全部を持ち上げるように反らすと土踏まずや踵を引き上げるような動きになると共に脛やふくらはぎにも緊張が生まれます。いわゆるウインドラス(windlass mechanism、windlass effect)です。

反対に指全部を押し下げるような動きは足首を伸ばす方向の力の使い方につながります。

 

このように指を動かそうとするとその他の部位も連動して動くということは、逆の言い方をすると指を動かせないということは地面に近いところからの微妙なバランス調整がしにくくなるということでもあります。

レッスンでもよく言いますが、バランスのとり方の原則として
「細かいバランスの調整は足元から。上の方は大きくバランスを崩さないように、或いは大きくバランスを崩したときに使う」
というのがあります。地面に一番近いところの体の末端は足の指ですから例えスキーブーツを履いていても指を動かせるという「感覚」は、必要最小限のコンパクトな動きで最大の効率を求めたりそれができるバランスを保持したりといったことを考えるときには非常に重要なのです。

体の中で動かせる部位がたくさんあるということは、バランスを崩しそうになったときの対応幅が広く取れて余裕が持てるということでもあります。バランスボールやバランスボードを使ったトレーニングが効果的といわれるのは、より多くの筋肉が適宜使えるようになって効率のいい動きができるようになったり、結果反応が早くなったりするからなのです。

さらに体幹部も含めた体の使い方においては呼吸法も合わせて覚えると効果的といわれています。その手のエクササイズも最近いろいろありますよね。

 

スキーにおいて上体がオーバーアクションになりがちだったり下半身より先に手でバランスをとろうとする傾向のある方、支点が高いと言われる方などは、

  • ポジショニングや運動イメージが合理的なものであるかを確かめてみる (technic)
  • 可動部位や可動域がより多くなるような体にしていく (phisical)
  • そしてそれらを阻害しないような道具のセッティングになっているかをチェックしてみる (material)

といったことがイメージチェンジのヒントになることもあると思います。

 

そこで道具、ここでは当然スキーブーツの話です。履物としてまた道具として、安全に効率よくスキーを操ったりバランスをとりやすいように足を保持し尚且つ可動域を制限するように作られているのがスキーブーツです。

アルペンスキーブーツ(ここではスキーブーツと略)に比べて足首のサポートの弱いクロスカントリーブーツや革のテレマークブーツなどでは、角付けを作り出したり維持したりするのに足首・脛まわりに大変な緊張や労力が必要になります。つまり力の伝達効率が悪いということで、実際それらのブーツを使ってカービングターンをすることはよほど短いスキーを履かなくてはむずかしいことです。またそれらのブーツは前後のバランスの維持がむずかしい物であることも容易に想像できると思います。ただしそれらのブーツでは足首の曲がりすぎによる怪我をかかとが上がることで防いでくれているという側面もあります。事実、かかとが固定されているけれども足首周りのサポートの弱かった昔のスキーブーツは足首・下腿部の怪我が今よりはるかに多かったものです。

また運動靴ではその用途に沿った足庄角が設定されていますが、スキーブーツにはさらに脛の前傾角やカント角もあります。スキー運動に適したそのようなアライメントが設定されているからこそ、スムーズに角付けできたり、脚部をひねることができたり、体重の何倍もの外力に耐えたることができたり、無理なく脚の曲げ伸ばしができたり、低い姿勢を維持できたりするのです。

 

では、力をロスしないようにまた体をしっかりサポートしてくれるように、ブーツの中で足が微動だにしないように隙間なくガチガチに固めればいいかというと、そうでもないのがスキーブーツのむずかしいところです。

感触としてそういうのを好む方もいますが、それでもブーツの中で足は動こうとするものなのです。動こうとするからこそスキーブーツが機能するという言い方もできます。また前述したように内反や外反などの動きをしようとすると足は変形します。変形する余地が全くないスキーブーツというのは、履物・運動靴としてはものすごくつらい物になってしまうものなのです。

例えば

・ 足のインサイドの形状がシェルもインソールもピッタリジャストフィットで痛みも圧迫も感じない。

・ だけれども指の部分は動かせるだけのスペースがある。

こういうスキーブーツがあったとします。静止状態だけで考えれば一見理想的なフィッティングです。しかし静止状態では理想的に思えるブーツでも、いざ角付けしたり指を動かそうとすると指がつりそうな感覚があったり、中足部に変な引きつるような緊張感がでたり、指の付け根部分に当たるような感覚がでたりといったことは大いにありがちな話です。こういうブーツはもちろん問題ありです。こういうセッティングはじっとしているときのフィット感は非常にいいと思いますが、実際に滑ってみると妙に疲れやすかったり甲が当たりだしたりどこか痺れてきたりといった物になりやすい可能性があります。

だからといって動きすぎたり意図しないような動きを誘発してしまったりする物も勿論よくはありません。例えばターンをしているときに外足の向きがスキーブーツの中で外側に逃げていくような場合などがそうですが、この場合当然力がロスされるだけでなく小指の付け根に当たりが出てきたり膝が痛くなったりといった症状も起こりやすくなります。

 

要は動くか動かないかではなくて、動こうとする足をどう受け止めてスキーに伝えてくれるか、どうコントロールして体を守ってくれるかがスキーブーツでは重要な事なのです。

シェルのフィッティングも静止状態の足の形をただ忠実に再現すればいいというものではないというのはここに理由があります。

まずは動きやすいように、感覚的には足裏に「広く」乗れるように、ニュートラルな状態で足が納まるようにブーツをセッティングすることが第一ですが、尚且つ例えば内反や外反といった動きに対してもどちらかを制限するのではなくて両方ストレスなくできるような感覚になっていることも大事なのです。勿論人にはそれぞれ内反しやすい足の人もいれば外反しやすい足の人もいますし、当然そこには足首を始めとした関節の可動域の偏位も伴います。さらにはそのことによってどういう風に動きやすいかあるいはどういう方向に対して強いか弱いかといった特性や癖もでてきますが、どちらかを制限するのではなくて、どちらにも動かそうと思えば動かせる、この感覚が持てることが大切です。勿論体に無意味な負担が掛かるような動かし方ができたり歯止めなく動かせるようにしてしまうと当たりの原因になったり、牽いては膝や腰の痛みにつながったりしてしまいますが、支えたり押さえるべきところはしっかりサポートして足と体を守ってくれるように、だけれども足を動かせるという「感覚」がもてるように然るべきスペースやフレキシビリティーを確保しておく。

この辺がインソールも含めてブーツカスタマイズの妙ですかねえ。

一見何か特別なことをしているようにも見えない、だけれどもなぜか妙に具合のいいブーツ(カスタマイズ)というのはこういうところが絶妙だったりするのです。

 

(おまけその13 おわり)


おまけの読み物

中江達夫のスキーブーツフィッティング