おまけの読み物その08 なぜか手の話 小指の立つ人

2008.02.20

スキーブーツを各個々人に合わせてカスタマイズすることを「ブーツチューン」「ブーツチューンナップ」等と表現することが一般的には多いようです。しかし、当ブーツフィッティング企画をホームページに載せるのにあたって「ブーツチューン」「ブーツチューンナップ」という言葉は、keywordにはセコく仕込んでありますが、本文には敢えて一切使わないようにしました。できるのは「フィッティング」だけですよということをはっきりさせておくためです。

「チューン」であればまだそれほど誤解を招くことはないと思いますが、「チューンナップ」と言ってしまうとちょっと「フィッティング」とはイメージが離れてしまうのではないかと個人的には思うのですがいかがでしょうか。敢えて他の言葉を探すとしたら「セッティング」といった感じが近いと思います。

 

「ブーツチューン」でウェブ検索しても当然当ページはヒットしてくれないわけですが、検索結果上位に出てくる

「ブーツチューンはインソールから始めてみよう」(スキーネット内の特集)

http://www.skinet.co.jp/sp_skiboots/index.html

の中の親指と小指でリングを作って力の入り方を探る話(”O”RingTest)がおもしろいです。一読することをお勧めします。

ブーツの試し履きをするときは当然意識を足に集中させますよね。そのときに気が付くと手の小指が立っていたという経験のある人はいませんか?ということで今回は手の小指の話です。

 

手で何か道具を握る(grip)ということをして力を入れたり振り回したりするときに、小指に力を入れたり小指の使い方を意識できたりすることがとても大事なことなのは、経験として知っている方も多いと思います。薪割で斧を振り下ろすときに小指に力が入っていないと恐ろしいことになります。スポーツで言えばバット、ラケット、竹刀、ゴルフクラブ、釣竿を使うときなどがそうですし、もちろんスキーではストックを握るときもそうです。

テニス初心者に何も教えずにラケットを握らせると、いわゆる「くそ握り」をする人は案外多いものです。普通に上品な言い方をすれば「わしづかみ」ですね。恐らくとにかく当てるまでのことに精一杯で、「振る」という動作まで意識が及ばないのでそういう握り方をするのでしょう。こういう握り方をすると体の回転をうまく使えないので手打ちになりやすいです。

 

指を動かす腱はおもに「親指」「人差し指、中指、薬指、小指」の2つのグループに分けられます。親指が独立した腱であるのはすぐに理解できると思いますが、さらに細かく見ていくと親指以外の4本の指の中でも人差し指と小指にはそれぞれ指を伸ばすための独立した腱が余分にあって中指・薬指に比べて単独で動かしやすくなっています。

何かを握るときに親指は特に意識しなくても動きますし、役目としては主に支えとなる使い方をします。人差し指は細やかな動きや微妙な力加減をするのに適した指で、センサーとしても重要な役割を与えられていることが多いです。ラケット、バット、クラブ、などを握るとボールに一番近い指ということになりますし、他の指とは少し離した使い方をするのもそのためです。この親指と人差し指の役割は箸の使い方を考えてみてもわかりやすいと思います。

中指と薬指は特に単独で伸ばすということがやりにくいため日常的にはセットで機能させることが多く、例えばボーリングの玉に差し込む指が「親指+中指・薬指」ではなくて「親指+他の組み合わせの指2本」になっていたら結構つらいことになっていたはずです。

では小指はどうでしょう。

余り強い力を必要としないときには小指は遊ばせておいても割と平気です。しかし反対に強い力を必要とするときには小指は重要です。試しに小指を立ててガッツポーズをしてみると、なんとも力の入らない情けない感じのガッツポーズになると思います。強い力を必要としないときや細かな作業をするときに小指が立つ感じになるのは人間としては割りと自然なことなのですね。

 

スキーをするときにはもちろんストックの話になりますが、突くところを自在にコントロールしたり、突き方に強弱をつけたりするにはやはり小指の使い方は重要です。しかしながら、小指の力の使い方を意識してみるとストックがどうこうというよりも、バランスの取り方が変化して滑りそのものが変わる可能性があるのです。

首から肩、肩甲骨と体の裏側に力が入っていて肩が凝りそうな滑り方をしている人、脇が窮屈な感じで上体が起きてしまいやすい人、肩の辺りでバランスを取っているような感覚のある人などは、小指をしっかり握ることで体幹部の筋肉、特に体の表側の大胸筋や腹筋が上手に使えるようになって姿勢が変わることがあります。また逆に低速でデモンストレーションするときなどには意識的に小指の力を抜いて、上体に力が入り過ぎないように調節することもあります。バランストレーニングとしてはお馴染みのノーストックトレーニングも、ストックを握っているかのように手をグーにするのと、手をパーに開いて掌を下に向けるのと、両方試してみると何か感じるところもでてくるかも知れません。

 

ところが小指をしっかり握ってと言ってもうまく力が入らない場合があるのですね。その原因が実はブーツのセッティングにあったりすることがあるのです。ということが前述のスキーネット内の記事でわかると思いますが、少し補足説明しておくと、親指と小指でリングを作って力の入るときというのは、手や腕だけでなく腹筋や大胸筋にも力が入ります。ぐうたらな格好をしているときにやってみると腕にしか力が入らないはずです。このとき誰か他の人にその輪を切るように指を引っ掛けて引張ってもらうと実際に強い力が使えているのか使えていないのかもよくわかります。腹筋や大胸筋にも力が入っているときには結構踏ん張りが効きます。

スキーをするときのイメージで構えてみたのに力が入らなかった場合は少し悲しくなると思いますが、ウインドラスポジション(趾球部つまり足指の付け根を床に付けたまま足の指先を持ち上げた姿勢)をとってみると力が入るようになることがあります。それでも変わらなかったら、スタンス幅を変えてみたり、足の向きを微妙に変えてみたり、骨盤の角度を変えてみたり、足首・膝・股関節それぞれの曲がり具合を調節して前後のバランスを変えてみたりしてみてください。いいところが見つかったらその姿勢をニュートラルポジションとして覚えておくと良いでしょう。

そしてもちろん、スキーブーツを履いたときに同じ姿勢がとれて、同様な力の入り方ができるかが問題です。ブーツの足底面は少し前に傾いていることを考慮する必要はありますが、膝・腰・頭の位置関係を極端に変えて前後バランスを調節しないと力が入らない、ブーツソールの向き(=スキーの向き)を外や内に向けないと力が入らない、スタンス幅を極端に変えないと力が入らない、何をどうやっても力が入らないという方は最寄りの信頼できるお店または当スキー学校ブーツフィッティングへ今すぐGO!です。

(ただしブーツの問題ではなくて、普段の姿勢や運動パターンに起因する関節の状態や筋肉の状態など身体そのものの問題である場合も勿論あります。)

 

ところで試し履きのときに小指が立つのは、どうしてなんでしょう?

次回は「なぜ人は牛乳を飲むとき腰に手を当てるのか」です。(ウソです)

 

(おまけその8 おわり)


おまけの読み物

中江達夫のスキーブーツフィッティング