おまけの読み物その12 サイズの選択はむずかしい

2009.07.15

Q&Aに入れるかどうか迷った項目がひとつあります。それは「適正サイズとは」という設問。

実際にサイズの選択で迷っているというお客様からのご相談は多いですし、新品のブーツでのフィッティングをお申し込みいただいた時点でサイズの変更をお願いした例も少なからずあります。サイズの選択は機種の選択と同等かあるいはそれ以上に大事な過程で、サイズの選択ミスは後でどうあがいてもリカバリーがきかないことが多いのですが、ここで説明するには写真や絵がないとキツイですしむしろ動画がほしいくらいなのですが、しかしそんなめんどくさいことはしたくない。うーむ・・・。

 

まずは何はともあれ自分の足の実寸を知ることから始まります。

「靴 サイズ 測り方」 とか 「靴 ワイズ 測り方」 あたりでネット検索して、それを参考に足長・足囲・足幅を実際に測ってみましょう。その値とJISサイズ表、普段履いている靴を照らし合わせてみて今後の靴選びの参考にもするといいでしょう。多分この段階で「えーっ!うそー」という人続出だとは思いますが、実際に自分の足の実寸を知らない方は多いですし、なぜか自分は幅広だと思い込んでいる方も多いです。確かに日本人は幅広甲高なんて話も昔はよく聞きましたが、私の経験からするとむしろ日本人の足はひ弱になってきているのではないかという懸念を持っているぐらいで、外人のほうが遥かにたくましい足をしている印象があったりします。

 

ところで、検索して1ページ目に出てくるサイトを5、6個巡ってみるだけでもいろいろ勉強になりますが、犬の足のサイズの測り方なんて世界もあるのですね。もうひとつついでに「width 読み方」で検索してみるとみんな結構あれれ?と思っているのですね。正しい発音は決して「ワイズ」ではないと思うのですが、「wide」や「size」とごちゃまぜになって日本語化しつつあるということでしょうか。メーカーのカタログでも「ワイズ」と書いてあったりしますし、靴屋さんでも大概それで通じてしまいます。

 

足のサイズを測る際は必ず立って体重を乗せた状態で測ってください。体重を乗せると足は変形します。例えば椅子に座ったまま体重を乗せずに測ると1cm位小さくなってしまう人もいます。それから運動したあとや夕方になると足がむくむから、サイズを測ったり靴を買うのは午後遅くになってからというようなこともよく言われていますが、そうすると靴屋さんは夜しか営業できないことになってしまいます。そもそも朝履けた靴が夜になったら履けないなんてこともないと思います。毎日スキーをしていると、朝ブーツを履くときに今日は足がむくんでいるなと感じる日もありますが、それも一瞬です。どうせすぐに忘れてしまいますし、運動(スキー)をしているうちに血流がよくなってむくみはとれてくるものです。そのことによってサイズを上げ下げしなくてはならないなんてことはまずありません。

スキーブーツも普段履く靴も結局は現物あわせが基本ですから数ミリ程度の測定誤差はさほど気にしなくてもいいですし、実寸を知った上でおおよそ合うサイズを経験的に把握していけばいいだけなのですが、それでも靴やスキーブーツを購入する際はあらためてお店の人に測ってもらいましょう。実寸を把握したうえでどのようなモデルとサイズを提案してきてくれるかということを数多く経験しておくのも、信頼できるお店かどうかを見極める目を養うために大事なことです。

とにかく実寸と普段履いている靴のサイズが1cmも2cmも違う方が「そうと知らずに」そのままスキーブーツを買ってしまうということだけはなくしたいものです。

 

スキーブーツのカタログでも最近はWIDTH表示がされていることが多いですが、大体26cmぐらいのサイズの幅を表記していることが多いようです(大体この辺のサイズを開発のベースとすることが多い)。サイズが上下すれば幅も相対的に変わるということですね。当たり前といえば当たり前ですが。

最近のレーシングトップモデルは幅95ミリ前後(というカタログ表記)のものが多いですが、靴のJIS規格表と比べて見るとあり得ない細さですよね。普通靴には「ころし」といわれる捨て寸(この場合は実際の足幅よりも小さく作る、「靴 ころし」で検索してください)があって、例えば足幅95mmの人用の靴の実際の幅は95mmよりも小さく作ります。95mmの足幅の人が実幅95mmの靴を履くとゆるい靴になってしまうのです。つまり靴の表記はその足長と足幅の人が履いたときに合う物という解釈でいいのですが、ところがスキーブーツの幅表記は単純にその幅の物(ブーツ)ということであって、足長26cm足幅95mmの人が履くとぴったりということではありません。スキーブーツの場合は「その足幅で合う人を表記している」のではなくて、「その物の幅を表記している」ということですね。また実際にスキーブーツの場合でも足幅と同じ幅の物は「ゆるい」と感じられるブーツになってしまうことが多いものです。

現在日本で売っている靴は男性用ですとEEからEEEEが多いようで、ひとつのモデルに複数の足幅が設定されている靴もあるのですが、スキーブーツの場合は滅多にそれはありません。そのかわりEEをEEEEにするぐらいのフィッティング調整は割と当たり前にできます。むしろボリュームのない足のほうが実はやっかいなケースが多くて、そういう方の場合最終的にはフォーミングインナーに頼るしかなかったりもします。

ボリュームやつま先の形(ギリシャ型とかエジプト型とか)はある程度フィッティングで調整できますので、大体の目安として実寸プラス1cmまでのサイズで収まることがほとんどで、それよりも大きいサイズが必要になるケースは極稀と考えていただいて結構です。もちろん逆に実寸よりも小さいサイズが適正サイズである場合もあります。ただし、くどいようですがサイズ表記はあくまでも目安とお考えください。普通の靴もそうですがスキーブーツの場合もあくまでも現物あわせが基本です。同じメーカーのスキーブーツでもモデルによって適正サイズが違うこともありえます。

 

余談になりますが、cm表示とUS、UK、EURO表示などが併記してある場合、スキーブーツでは同じメーカーの物であればそれらの表示のあいだでずれがあることはないようですが、運動靴などの場合は同じメーカーの物でもモデルによってずれがある場合があります。

(例えば26cm・US8のモデルと25.5cm・US8のモデルが同じメーカーの中に存在することがあります。)

 

ふう、ややこしいな、もう。

 

で、自分の足のサイズがわかったら実際にスキーブーツを履いてみるわけですが、今度は「スキーブーツ 正しい履き方」などで検索・・・・・・しても期待するような絵にヒットしない・・・・・・って、だめじゃん。

 

サイズの目星を付けるのにわかりやすい方法のひとつがシェルからインナーブーツを取り出して、インナーブーツだけで履いてみることです。出来ればパートナーがいるとやりやすいです。

まず椅子に腰掛けてインナーブーツのかかとを床に着け、手前に斜めに傾けます(つま先側を浮かします)。

パートナーにインナーブーツのつま先を1cm位つまんで持ってもらいます。(明らかに大きそうだなと思ったら私は2cmぐらいつまんでしまいます。)

そしてインナーブーツの後ろ上端を両手で持って引っ張り上げるようにしながら、かかと落としのようなイメージで中に足を落として行きます。適正サイズの物であればインナーブーツのかかと部分が皺にならずにパンと張った状態で足が納まると思います。皺になった場合はサイズが大きすぎるか小さすぎてかかとが下まで落ちないかの両方の可能性があります。今一度かかとがしっかり後ろにきっちり納まらないかやり直してみてください。

パートナーに手を離してもらって、指をしっかり伸ばしてみましょう。個人差はありますが、つま先がジャストで前に軽くさわっているぐらいから1cm弱の余裕があるぐらいまでが適正サイズです。パートナーがつまんだままなのに、思いっきり指を伸ばせたら大きい可能性があります。

そしてもちろん立ち上がって様子もみます。適性サイズであれば足が収まるべきところに収まった感じのまま立てますが、大きすぎると何となく足がずるっと滑って収まりが悪くなるような感じになったり、また小さすぎると指がいきなり曲がってしまったりします。

いまいちよくわからなかったら必ず上下のサイズも履いてみてください。なおハーフサイズ(コンマ5)はインソールの厚みやインナーブーツ底の厚みだけでサイズ分けしていることが殆んどで実質同サイズと考えても差し支えありませんが、シェルサイズで1つ上下しますとかなり大きさが変わりますので注意が必要です。

 

目星がついたらインナーブーツをセットして、いよいよ履いてみます。

インナーブーツのアウトサイド側とタングの外側寄りをそれぞれ掴んで引き裂くように横に開きながら足を入れます。インサイド側を開く人が多いですが、私は逆のほうが履きやすいと感じています。またタングを向こう側に押し開いて履こうとする人も多いですが、それですと入り口があまり広くならないのでやはりどちらか横に開いたほうが楽です。

 

なお最近増えているシューレース(靴紐)付のインナーブーツは、元々硬い選手用のブーツを履くのにインナーブーツを履いてからシェルに足を入れたら楽だったということから発生した仕様です。少なくとも夏場に市販品のブーツを試し履きするのにそこまで苦労することはないとは思いますが、試し履きの段階では必ずインナーブーツに足を入れて紐をしっかり縛ってからシェルに入れてください。実際に使用する際には紐を抜いたり、シェルが硬くなければインナーブーツをセットしてから履いたりといった運用も可能ですが、たとえ紐を抜いてしまってもインナーブーツに足を入れてからシェルに入れた方が何故か足の納まりがいいブーツというのもあります。この辺はやってみなければわからないことなので、買ってきたら色々試してみるといいでしょう。

 

足を入れたら一旦中腰になってインナーブーツの後ろ上端を両手で持って上に引っ張り上げながらかかとを2,3回上下させて(ポンピング)、かかとがしっかり後ろに納まるようにします。

かかとを下ろしたらそのままつま先を上げながら椅子に腰掛けてタングを足と脛に合わせるように押し下げた後、第1バックル、第2バックルを軽く締めます。第3、第4バックルは割りとしっかり目に締めてください。決して第1、第2バックルは目一杯の力できつく締めないようにしてください。最初から難なく奥のほうまで締められるようでしたら、ブーツのボリュームが大きすぎるかサイズが大きすぎる可能性がありますし、特にシェルの形が歪むほど第1バックルを強く締めることはブーツの性能をスポイルすることになりますので普段もやらないほうがいいでしょう。また第3、第4バックルはきっちり締めないとこれもブーツの特性をわからなくしてしまいます。アッパーシェルがゆるゆるの状態でいくら足首を曲げてもブーツの反応はわかりませんし、当然ブーツの持つ性能も発揮できないことになります。

この段階ではパワーベルトは締めても締めなくてもどちらでも結構ですが、目一杯きつく締めることはしないでください。よく何も考えずに目一杯締める方がいますが、パワーベルトはあくまでも補助的なものです。アッパーカフが歪んでバックルが浮くほど締めたのでは本末転倒です。

実際に滑るときのバックルの締め具合はそれぞれのバックルを状況に応じてバランスよく締めることが大事ですが、試し履きのときにはシェルのフレックスやボリューム・サイズを確かめることをテーマとした締め方をしましょう。

それからバックルを締める前にかかとを床にゴンゴンと叩きつける人も多いですが、これをやったからといってそれ以上かかとが後ろに納まるわけではありません。あくまでも気分的なものなので、コンクリートなど床が硬い所ではやらないほうがいいでしょう。かかとが減るだけで何もいいことはありません。

バックルを締めたら立ち上がって、足裏を床に押し付ける感じで軽くゆっくり下半身を曲げたり戻したりしてみます。このときタングに寄りかかるようにしてブーツを潰すような力の使い方をする方がよくいますが、そのようなかかとが浮くような体の使い方はアルペンスキーでは基本的にありません。あくまでも足裏全体を床に押し付けるような、言い方を変えるとスキーを滑らせるようなイメージの押し方をしてください。もしそれでブーツが硬く感じられるようでしたらブーツが硬すぎる可能性がありますが、とりあえずサイズの見極めの段階では一度第1、第2バックルを半開放もしくは全開放にして動きやすいようにしても結構です。

 

実はここから先は経験の浅い方がご自分で判断するのは危険な領域です。以下のような様子であった場合は何かしら問題ありですが、それがサイズの問題か、足の形や状態とブーツのマッチングの問題か(フィッティング調整や自身のコンディショニング調整で解決すべき問題か)、あるいはそれら複数の要因が重なっているためなのかといった判断を的確にすることは、経験豊富な方でもなかなか難しいものだと思います。

 

曲げたり戻したりした時に足がずるーっと前後するような感じがある

曲げたり戻したり歩いたりした時になんとなくブーツとの一体感が感じられない

明らかにつま先より前に大きな空間が感じられる

指は伸びているのに直立できてしまう

かかとがしっかり後ろに納まっていない気がする

背伸びをするようにかかとを大きく上下にスコスコ動かせてしまう

曲げたり戻したりすると脛に当たるような痛みがある

指が伸ばせない

爪が押されるような感じがある

指の上に全く空間がなくて指がピクリとも動かせない

下半身を曲げたり戻したりすると指を真っ直ぐ伸ばしていられない、指がつまる

指は伸びているが横から押されて窮屈・痛い、特に親指と小指

などなど

 

さらに難しいのがスキーブーツは多くの場合アッパーシェルとロアシェルの2つのシェルで構成されていて、2サイズのロアシェルに対して1サイズのアッパーシェルで対応していることも多いということもあります。ロアシェルのサイズだけを見れば少し大きめかなと思うような場合でも、全体としてみればそのサイズのほうがバランスがいいという場合もありますし、逆にロアシェルだけを見れば少し小さいかなと思うような場合でもフィッティング調整をすることで全体としてベストバランスになることもあります。

同じ足でも目的や使い方といった環境や技術レベルなどによってちょうどいいサイズが変わってくることもあります。

初心者・初級者の方は姿勢が安定しにくいため、爪を傷める可能性を考えて、微妙なところで迷ったら大きめのほうがいい場合があります。ただし初心者・初級者用のブーツは大概ゆったり目に作ってあってインナーブーツが馴染むのも早い物が多いですから、すぐにゆるくなって問題なくなる可能性もあります。また、逆にゆるすぎても足が収まるべき所に落ち着かなくて結局姿勢が安定しないことにつながりますから、爪を痛めたり他にも当たりがでやすくなったりします。この辺の判断は初心者・初級者の方では難しいでしょうから、やはり専門家にしっかり見てもらうことをお勧めします。

跳び系の方も着地の際かかとから着地すると爪にかなりの衝撃がきます。指の上、爪の部分に空間を確保しておくことはブーツ及びサイズの選択やフィッティング調整で大事なところです。

プラスチックシェルのテレマークブーツについては、ボール部(指の付け根のところ)でソールが曲がるという特徴がありますが、だからといってそれを理由に殊更大きめにする必要はありません。テレマーク姿勢をとってみていろいろ確かめなければならないことはありますが、アルペンブーツと同じ感覚でサイズ選択をしても大丈夫なことがほとんどです。また現在はフルサーモインナーがセットされたブーツが多いですが、未成型のまま足を突っ込んでもよくわからないと思いますので、その場合はインナーブーツを抜いたシェルに直接足を入れてシェルのマッチングも含めてどれぐらい隙間があるのかを見ると見当を付けやすいです。あるいは別にアルペンブーツのインナーブーツを持っていれば、それを持参して突っ込んで履いてみるのもいいと思います。テレマークブーツのシェルはゆったりめに作ってある物が多いですから、サイズが合っていれば大概のインナーブーツは入ります。

 

とにかくサイズ選択は慣れないと難しいものであるのは確かです。しかし専門家の意見を聞きながらも様々な可能性を考えながら自分でもできることはやってみる、そういう積極的な姿勢で経験を積んでいくことが失敗を減らすことに繋がると思います。

 

(おまけその12 おわり)


おまけの読み物

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