おまけの読み物その03 どうしても避けては通れないインソールのお話

2007.11.20

[指導員の立場から機能性インソールを語ってみる]

インソール(中敷)に何かしらの機能性(土踏まずをサポートして疲れにくいとか、外反母趾の予防にいいとか・・・)を持たせた物を機能性(または機能的)インソールと呼んでいます。

そしてスキー界が機能性インソールに着目したのは他のスポーツより比較的早かったとも記憶しています。

現在著名なインソールメーカーの創始者がスキーヤーだったこと、スキーがバランスのスポーツと言われるような性質をもっていること、硬いスキーブーツの中に足を納めるので他のスポーツに比べてアライメントの狂いがそのまま障害に繋がりやすいことなどがその理由としては考えられます。

 

個々の足に合わせたカスタムインソール(範囲を広げれば医療系オーソティクスOrthotics も)を作ってくれるスキー関係のお店は現在とても多いですし、またそのシステムと製品を提供しているメーカーもたくさんあります。しかし多くのお店と作り手が存在することはそれだけ出来上がった物の出来不出来の差も大きいということにも繋がりやすく、多くのシステムが存在するということはそれと同じぐらいの数の方法論が存在しているということでもあります。店・人・物を選別し「自分に合ったいい物」を手に入れるのは実はそう簡単なことでもないのです。お客様の誰もが優れた「勘」を持っているわけでもなく経験豊富な「目」をもっているわけでもありません。大方の人は評価の基準もよくわからないというのが本当のところでしょう。

私自身ひとつのメーカーに限っても何人もの人に作ってもらいましたし、何種類も作ってもらいました。もちろんその中には合う物も合わない物もありました。そして最終的には自分で作らないと結局納得できないということになってしまったわけですが、それはインソールに限らずブーツのフィッティングについても同じでした。

私も何もわからない頃は当然ブーツのフィッティングは人の手に委ねました。当時は今ほど情報もなくどこにどんなお店があってどんなことをやっているのかもよくわかりませんでしたし、遠くまで出掛けて若い身には決して少なくない金額を払ったのに、この程度かと失望して帰ってきたこともあります。結局は自分を満足させるには自分の手に委ねるしかなかったのです。幸いそう間違ったことはやっていないという実感はありましたし、理屈がわかってくると更にその思いは深くなっていったりもしました。また、周りも私を信頼してくれてどんどん経験を積ませてくれたのも大変ありがたかったです。

ただし私のようなケースは本当に稀有です。そんなことができる環境の人は滅多にいないし、そもそもそこまでこだわって自分でやってしまうということ自体普通ではありません。そんな普通じゃない人(変人?)もインソールの作り手の1人であったわけですが、同時に指導員という目線で見るとちょっと違うのではないかと思うことにちょくちょく出くわすのです。現在はインソールに本格的には携わっていないのに語る資格がそもそもあるのかという問題もありますが、多くのインソール職人には叩かれるかもしれないけれども言いたい現場の声というのが出て来るのです。

 

長い話になるとは思いますがお時間があればお付き合いください。作ってもらう側の方にとっても役に立つ話はあると思います。お客様のために、という志自体は職人皆同じなのですから。そして主役はお客様なのですから。

 

[作り手が未熟、何もわかっちゃいない奴だった・・・。]

どうしても量販店では不幸にもこのケースに当たる確率は高くなってしまいます。技術も経験も未熟だけならまだしもスキーに対する情熱も理解も浅い店員。こういう人に当たってその上司のチェックも当てにできないようだといい結果は望むべくもありません。量販店では情熱とセンスを持った人間が現れて経験を積んでもらうことでしか解決する道はないと思います。

勿論そういう信頼するに足る人は少なからずいるのも確かで、そういう人の取り扱い枚数は店の規模に比例して多かったりもするので結構あなどれなかったりします(私の知人で1年に500枚近く作った人がいるが、あっという間にうまくなった)。逆に悲しいかなスキーに情熱のあまりない人間も少なからずいるのが量販店で、そんな人にいくら教え込んでも経験を積ませても無駄になることが多いのが現実です。

人材がいない(まだ育っていない)のであればプレモールドタイプを中心に売っていてもらったほうがよっぽど店にとってもスキー界にとっても有益ということもあるはずで、少なくとも腕に自信がないうちは、あるいは出来不出来が自分でわからないようなあいだは、ポスティング(いわゆるブロック加工)をするのだけはやめて欲しいのです。作り直しの効かない、修正の効かない出来の悪い物を持ち込まれると暗澹たる気持ちになります。お客様には、量販店を利用するときも基本は店選びではなく人選びなのだということを覚えておいていただきたいと思います。

 

専門店で店主は技術も経験も知識もあるはずなのに出来の悪い物を掴まされる場合もあります。これは経験の浅い弟子に作らせた場合に起こりうるケースで、師匠のチェックが甘かったか見落とされた可能性が大なのですが、第三者の目に触れたときにはそんな事情はわかりません。名の通ったお店なのにこれはいったい何なのかと、私たちが一番悩まされるケースです。

幸か不幸かそれに気付いてしまったお客様は、こういう場合どうしたらいいのでしょうか。そのお店と今後も良好な関係でいたいのであれば、持って行って修正もしくは再成型を丁重にお願いしましょう。見る人が見ればわかる物なのですから普通は応じてくれるはずですし、言いくるめられたらそのときはそのときで誰を信用したらいいのかを自分で考えましょう。

 

一番気をつけなければならないのが、専門店の看板を掲げてはいるが店主が個性的な性格の持ち主で、傍から見ると妙なこだわりを持っていたりするお店。根本的に大勘違いをしていたり技術も大したことなかったりすることがあるのでよーく観察する必要があります。言っていることややっていることを見ればわかる人にはすぐわかるのですが・・・。

この世界は日進月歩で、理論も技術も素材も機材もどんどん進化しています。そもそも職人の頑固さは自身に向けられるものであってお客様に向けられるべきものではないと思うのですけれど、時として時代やお客様のニーズの変化に対応できる柔軟さも必要ですよねえ。

 

[そもそもカスタムインソールって絶対に必要な物なの?]

最近思うのである。インソールありきのフィッティングって何かおかしくないかと。

ユーザーもベンダーもフィッティングとインソールはセットで考えている人は多い。専門店ならば間違いなく両方提供しているし、普段履き用のインソールも絡めてケアしてくれるお店も多い。勿論そのこと自体に異論を挟むつもりは毛頭ない。私もスキー用、運動靴用、普段履き用とカスタムインソールを使用していますし、その効果やありがたみも十分わかっているつもりです。

カスタムインソールは誰にでも使用をお勧めしたい物でもありますし、私自身カスタムインソール無しでスキーをすることはあまり想像したくないことではありますが、しかし少なくともスキーブーツにおいては、インソールは主役ではなくあくまでもオプションであると私は考えています。極端な話、スキーブーツが無ければスキーはできないが、インソールが無くてもとりあえずスキーはできるのです。

 

時として何か決定的な勘違いをしているのではないかと想像できるような加工が為されたスキーブーツに出くわすことがあります。そのようなブーツは往々にしてインソールが主役であるかのような作りをしています。よくわからない考え方の基にインソールを作成し、その辻褄を合わせるためにあらゆるところに手をいれなくてはならなくなる。はっきり言って泥沼のパターンです。

そういうブーツを作る人は静的な面圧やバランスしか見えていない、考えていないのではないかとの想像は付きます。雪の上に実際に立って運動したらどうなるかまで考えが及んでいないのではないかということです。

フットベッドに角度を付けたり、インナーに分厚いくさびを貼り付けたり、アッパーシェルを捻じ曲げたりしたブーツをお持ちの方は一度別のお店に行って意見を聞いてみることをお勧めします。少なくともそのようなブーツはそのインソールとインナーブーツとフットベッドとシェルの組み合わせでしか存在できません。この異常さがお分かりいただけるでしょうか。

 

[ポスティング(ブロック加工)は本当に必要か]

主に荷重して型取りする熱成型タイプについてのお話です。始めからブロックタイプとして作られる物は少し事情が異なります。

お客様の方から特に何も言わないとスキーブーツ用のカスタムインソールにはポスティングをしてくるお店は多いようです。ここで問題にしたいのはそのお客様にとって本当に必要と判断してやっているのかということと、ポスティングに頼りすぎたインソールの作り方をしていないかということです。

 

現在熱成型タイプのインソール素材は、必要十分なフレックスとトーションをだせる物が多くなってきて、強度だけの目的で言えば必ずしもポスティングは必要なくなってきています。この辺の事情はここ十年ぐらいの間に激変したと言ってもいいでしょう。例えば現在のシダスのラインナップでは、ポスティングを前提とするならばモデューロベースに補強パーツ1枚の2層レイヤーで大概の人には強度的に十分でしょう(ポスティング材の硬さも選ぶ必要はあります)。そのようにインソールのベース素材と補強パーツとポスティングのトータルで強度を計算して作る分には問題はありません。しかし力の方向や足のねじれを問題にしているならば、素材の選択や型取りの段階できちんと工夫しさえすれば後からのコントロールは必ずしも後足部全面にポスティングしなくても最小限の部分的な処理で済ますことも出来ます。

またインナーブーツがサーモフォームなどの場合の有用性もわかります。しかし単価アップのためかどうかは知りませんが、誰に対してもどのインソールとブーツに対しても闇雲に付けてくる場合、これはやはり問題にしたいです。

 

もうひとつ問題にしたいのは完全に左右のバランスを変える目的でポスティングしているケース。型取りの未熟さをポスティングで誤魔化そうとしているかのような物も含まれます。その作り手にはスキーヤーの自発的な運動を引き出すという思想が欠けているのではないかと思われる、そんなインソールです。

スキー用以外のインソールも作っているところであれば例えば革靴用にポスティングすることは間々あると思います。しかし運動靴用にポスティングすることはあまりないのではないかと思うのです。それなのになぜスキー用は例外なくポスティングするのか、スキーは運動ではないのかという疑問です。

歩いたり走ったりするのとスキーをするのとでは、運動の質が違うからインソールの作り方も違ってくるということは確かにあります。バランスを崩さないためにインソールを作るという考え方と、人間はバランスを崩すものだという前提でインソールを作る考え方とでも、型取りの仕方もその後の処理も変わってくるとは思います。がしかし少なくとも運動靴用には身体を固定するという概念はないのは共通しているはずです。ビルケンシュトックサンダルのような硬いブロックタイプで走りたいと思う人はいないはずです。また運動靴用にも使えるインソールには自発的に自然なバランスを身体に覚えさすという効果もあるのも共通しているはずです。少なくとも運動靴用として作るときには、ニュートラルな辺りまでは誘導してもそれ以上のお節介はしないはずなのです。

それなのにスキー用になるといきなり普段の生活を否定するかの如く、動きやすいほうに動けなくする加工をしておいて運動しろという、そんな作りをしている物がものすごく目に付くのです。確かにそれでスキーをするときには腰が回りにくくなるなどの癖が目立たなくなるかもしれません。しかしそれは同時に、たとえ一時的にせよ可動域を狭くしている可能性もあるのです。

 

こういうことをお客様にきちんと説明しているのでしょうか。またそのようにして出来た運動イメージというのは本当に身に付くものなのでしょうか。スキーブーツを脱いだ状態で運動イメージを再現できるものになるのでしょうか。

人間の癖というのは個性にも長所にもなり得るものだと指導の現場に立つ者としては考えたいのです。癖イコール悪と考えてひたすら癖をつぶすようなセッティングは作る側の我儘ではないのでしょうか。

どうかインソール職人の皆さんには、メトロノームの針をいきなり反対方向に振るのではなくて真ん中に戻すことも考えていただきたいのです。

 

[お節介が過ぎませんか]

人間、左右のバランスが違うのは珍しいことではありません。むしろ全く同じ人の方が珍しいかもしれません。

それでも人は歩いたり走ったり自転車に乗ったりしている。人にはそういう調整能力が備わっているはずです。最先端の2足歩行ロボットの足の長さが左右で1cm違ったら歩けるのかどうかは知りませんが、人ならば歩くことは勿論、スキーだってできる。左右でバランスが違うからといってバランスウエイトを付けたりしなくても自転車に乗ることができますし曲がることもできます。曲がる際にどちらか倒しにくいほうは必ずありますが、それをどう考えるか、どう対処するかは人それぞれでしょう。そういうものだと割り切って考える人もいるでしょうし、考えて工夫して左右同じに倒せるように身体の使い方を覚えていく人もいるでしょう。

スキーでもそういう考え方があってもいいのではないかと思うのです。とりあえず道具としてはニュートラルな状態にしておく、あるいはその辺までは補正(誘導)してあげる。そこまで持っていって初めて自分の身体はどう動きやすいのかどう動きにくいのかわかる人も多いでしょう。わかれば後はその人次第です。

 

自分の体のことを知ること、自分で考えてからだの使い方を覚えること。これは現代のカービングスキーを扱うにおいてとても重要なことなのではないかと思います。

現代のカービングスキーを昔のクラシックなスキーと比べると道具として遥かに易しい物に進化したことがわかります。身体の重心とスキーを内と外に位置させれば、どんな格好をしていてもとりあえず曲がってくれます。そうなるとどんな格好(運動)をしているのかという質が今度は問題になってきます。重心をより内側に持っていけるようになった、つまりスキーの上で動ける範囲が劇的に広がったことも注目すべき点です。つまり自分がどこまで動けるのか、どれだけの反応ができるのか、どういう動きが得意または苦手なのかといったことを知っておかないとスキーの性能をうまく生かせないだけでなく、時として危険ですらあるとも言えます。

 

シェルやインソールを調整することによって、普段と同じように動けるようにすることがフィッティングのテーマだと私は考えています。ブーツのせいで普段は動けるものが動き辛かった。これを普段と同じ感覚で動けるようにすること、ここに意味があると思っています。

ところが過剰な矯正をして普段動けなかった領域まで体が動くようになったとしたらどうでしょう。勿論逆に普段動けた領域が制限されることも同時に起こりえます。インソールなどによって過剰な矯正をして左右の動きが揃ったとしたら、スキーがうまくなったような錯覚はもたらすかもしれません。しかし大事な自分の素の姿を知らない、わからないままになるのではないかという危惧を感じるのです。つまり理屈のわからないまま、意識しないままに普段と違う体の動きが出てくる。これはその人にとって肉体的にも精神的にも幸せなことなのでしょうか。出来なかったことができるようになったとしてもそれはうまくなったといえるのでしょうか。そこに本当の喜びは生まれるのでしょうか。自分が意識しない範囲まで身体が動いてしまうというのは筋肉に過剰な負担を掛けたりして危険なことはないのでしょうか。

 

恐らくここは指導員の私とお店の方との間で一番意見のぶつかる部分かもしれません。

指導員はレッスンの最後に「後は本人次第ですよ」と言う必殺技を持っています。ずるいといえばこれほどずるい言葉もないですが、本気でそう思っていることもあります。滅多に口にはしませんが「習うばっかりじゃだめですよ 本人が変わろうとしなくちゃ」というカードも忍ばせています。

ところがお店の人はこんな突き放した言い方はなかなかできません。言ったら疑念を持たれるのが関の山です。「1シーズンかけて滑りを変えながらブーツも仕上げていきましょう」なんてスタンスを取れるお店は少ないと思います。指導員は「ああ、あの時はこういうことを言っていたのか」とそれまでの過程も振り返りながら思い出してもらえることもあります。しかしお店の人は過程よりもすぐわかりやすい形で結果を求められることが多いと思います。ましてや数字を残せなければ食べてもいけなくなります。

私の言うことに違和感や温度差を感じる事があるとすれば、この待てるか待てないかの差なのかもしれません。勿論私が考えるようなやり方でうまくいかないこともあります。特に有る程度その人の滑りができあがってきているうまい人ほど一時的にスランプに陥る可能性があります。しかしそれでも待ちたいのです。うまい人はうまくなったなりの理由があります。だからこそ待ちたいのです。

 

お節介が過ぎるインソールを見るたびにこんな思いがぐるぐる頭の中を巡った後こんな言葉が浮かんでくるのです。

「なぜスキー用だけ特別なことをしたがるのか」

 

[医療用インソールとスポーツ用インソール]

ポスティングを利用して母趾球と小趾球の高さを左右で変えてあるインソールをよく見かけます。おそらく回内や回外をコントロールする為だと思います。両足母趾球側を高くして小趾球側を低くした物もありますし、その逆もあります。また片足は母趾球側を高くもう片足は小趾球側を高くした物もあります。つま先の厚さを変えて前後バランスを左右の足で変えた物も見かけます。勿論理屈はわかります、しかしこれはスポーツ用インソールとしてはどうなのでしょうか。

 

唐突ですが、医療用インソールの効果を試す実験をひとつ紹介しましょう。

まず足をまっすぐ前に向けて腰幅程度のスタンスを取って裸足で立ちます。そのまま両手を横に広げてゆっくり左右に上体をひねってみてください。大概どちらかひねりにくいほうがあるはずです。そこで今度は500円玉ぐらいの大きさと厚みのある物をどちらか片方の母趾球で踏んで同じようにからだをひねってみてください。右か左かどちらかで踏んだときに先ほどひねりにくかったほうがたくさんひねることができるようになると思います。

その程度の物を踏んでいるからといって足首から上の関節、股関節や骨盤、脊柱まで骨の配置が変わったなんて感覚はまずないでしょう。踏んだことによる何がしかの筋肉の緊張や弛緩というものも上の方ではほとんど感じられないでしょう。ではいったい何がおきたのでしょうか。

 

シダスにポディアテックという医療系のインソールがあります。

ベース・強化パーツ・補助パーツを症状により選んで貼り合わせ成型するインソールで、この補助パーツを付けると足裏側に少しデコボコが出ます。それを付けることで神経系に作用して体の変化を促す物です。体験してみるとわかりますがこれはものすごく効きます。健康な人に本来必要ないパーツを付けたこれを履かせたりすると一日で足腰の筋肉に異常な張りがでてきたり腰が痛くなったりします。

やはりシダスのスポーツ系インソールで母趾球部分に半円形の補助パーツが付いているゴルフプラス,ゴルフ3Dという物があります。これを使うとアドレスが安定して球筋が安定したり飛距離が伸びたりという効果が期待できるそうです。

このインソールをこのまま使う分にはあくまでもスポーツ用です。しかし、どちらか片方だけその丸い補助パーツを外すと話が違ってきます。軸がブレてよれよれになるぐらいならまだいいのですが、1ラウンド回ったら腰が痛くなるかもしれません。スポーツ系インソールに余計なことをしたばっかりに健康被害まで引き起こすかも知れないという例です。逆にパフォーマンスが上がるだけでなく、体調まで向上するような結果が出たとしたらどうでしょう。こうなるとこのインソールはスポーツ用と言うより医療用と同じような効果がでたことになります。

足裏に細工するというのは実はとてもデリケートな話なのです。

 

足裏には多くの反射区と呼ばれる領域があります。足裏のある箇所を刺激すると体の特定の部位が変化する現象があって、これを利用して疲労の改善などを促すのを反射療法(Reflexologyリフレクソロジー)と言います。最近よく話題に上がる「足つぼ」とはこの反射区のことを言っていて、東洋医学で言う本当の意味での「つぼ」とは実は別物です。東洋医学で言う「つぼ」は足裏には1箇所(もしくは3箇所)しかありません。反射区の理論や概念は西洋医学的なもので、ポディアテックのアプローチもそれと同様なところを狙っています。

では最初に言った母趾球や小趾球の領域を高くして角度を付けるようなポスティングはどうなのでしょう。ポスティングによってそのような角度を付ける分には足裏を直接圧迫するようなデコボコはできません。ただし窮屈なスキーブーツの中に入ったときに足裏はどのようなメッセージとして受け取るのでしょうか。

このあたりのことは私には正直よくわかりません。しかしバランスを感じるポイントである母趾球と小趾球が左右で同じ高さに揃っていないことにはどうにも違和感を感じる1人です。少なくとも体の矯正を目的とした医療的概念や医療系インソールをスポーツの場に持ち込むことは、門外漢である私にはその道の専門家の助言なくしては絶対できませんし、どちらかというと相談してお任せするべきものだとも思っています。

(※フットベッドに最初から角度が付いていることについてはまた別の話です。)

 

[スキー用のインソールは存在を忘れるぐらいが丁度いい]

内外の2つのアーチの高さを左右で変えたインソールもよく目にします。

左右とも扁平足で外反足だったら割と話は簡単です。ところがどちら片方でもハイアーチや内反足が入っていると話がかなりややこしくなります。例えば体軸が右に寄って右足は内反足・左足は外反足の場合はそれぞれのアーチはどのように作るのがいいのでしょうか。

 

1 左右内外ともウインドラスの高さそのままにつくる

2 右はウインドラスより緩め 左はウインドラスの高さで

  右内:低め 右外:高め 左内:高め 左外:低め

3 左右で高さを揃える ウインドラスで低い方にあわせる、もしくはそれよりも弱冠緩め

 

運動靴を含めた普段履き用であれば答えは「どれも有り」だと思います。

内反・外反・回内・回外がどの程度なのか、初めて作るのかそれとも継続的に使用していて作り直すのか、普段どれくらい運動しているのか、1日何時間ぐらい使うのか、立ち仕事用か激しい運動用か、足底筋がどれぐらいの太さなのか、足の裏は硬いのか、足首の可動域が左右で違うのか、筋肉の張りが左右で違うのか、身体は柔らかいのか、筋力はどれくらいなのか等々考慮すべきことはたくさんあります。またどのようなスタンスで型を取るかということも考えねばなりません。それらを総合的に判断して作ればいいのです。

では、スキー用であったらどうでしょうか。

私なら3を基本として作ります。

1はいわゆるフィット感は一番あるかもしれませんが、ただそれだけです。初めてインソールを作る方で初期の普段履き用には良いかもしれません。スキー用では特に右足に余裕がなさ過ぎて問題が出る可能性があります。

2は一番親切のような気はしますが一番違和感が出るかもしれません。こういう作り方が出来る人は「わかっている」人で、その狙いもよくわかりますが、普段カスタムインソールを使っていない方にいきなりスキー用でやると使用者が混乱して「よくわからない」という感想を持ちやすい危険性があります。作り手の満足度と使用者の満足度が離れたものになりやすいパターンです。また左右の筋肉疲労に普段とは違うものが出やすいことも想像できます。

3は1と2に比べて総てにおいて「ほどほど」です。完璧に補正しようとはしない、フィット感もほどほどで余裕がある、インソールの存在をそれほど意識しなくても済む。スキー用にはこれぐらいが良いのではないかと思うのです。

 

スキーブーツというのはそれだけで十分窮屈な物です。可動方向も一方向だけです。しかしながらスキーブーツはスキーをするための運動靴でもあるのです。決して矯正具ではありません。あなたはこれぐらいしないとバランスよく乗れません、と体を当てはめることを強制されるよりも、自分は右足に多く乗りやすいのだな、と自覚することができてそれを自発的に変えようとするときに妨げないだけの環境が用意されていればいいと思うのですがいかがでしょうか。

 

[理想の形を求めないでほしい]

スキーブーツやインソールに係わっていると人間の感覚はこんなに敏感なのかと驚くこともあると同時に、こんなに鈍感なのか、無意識な調整能力・適応能力はこんなにすごいのかと感心することもあったりと、不思議な感覚に見舞われることがあります。

初めてインソールを作るとその靴を履いて立った瞬間にめまいがすると言う人がいます。人によっては足の型取りをした台から降りた途端に貧血を起こしたかのようにふらついて倒れることもあります。普段と違うバランスで立つことにこれほど敏感な人もいるということです。

腰の曲がったご婦人がインソールを作ったらいきなり真っ直ぐ立ってそのまま歩いて帰ったなんてにわかには信じられないような話も聞いたことがあります。

私は初滑りの時はスキーブーツとはこんなにキツイものだったのか、運動不足か?と毎年あぶら汗を流しますが、2,3日もするとそれが当たり前のような顔をしてスキーをしています。スキー修学旅行の生徒さんが午後になったら左右逆にブーツを履いてきたなんてことはしょっちゅうですが、いたずらされてインナーブーツが左右逆に入っているのを気付かずに指導員研修会の3日間を乗り切った猛者もいます・・・。

「なーんか、おかしいな、調子悪いなとは思ったんだけどねえ」(当校スタッフA氏談)

 

シェルやインソールの調整に係わっている人ならば、当たるとか当たらないとか、気持ち悪いとか快適かとかがほんのコンマ数ミリの差で変わってくることは経験していると思います。また、普段履き用のインソールと同じようにスキー用のインソールを作っても必ずしもうまくいかないことも経験していると思います。しかもうまくいかない時というのは大概「良く出来すぎた」時なのがなんとも悩ましかったりするわけです。

 

スキー用のインソールってあんまりガッチリ作らなくてもほどほどでいいんじゃない?

ちょっとルーズなぐらいで丁度いいんじゃない?

 

長々と語ってきて結論がこれかよ、と思うと少し情けない気もしますが、この「ちょっと」や「ほどほど」加減が実は一番難しいところでもあったりする訳で。

一所懸命な若い人にはなかなか解らないだろうなあと、遠い目になったりする今日この頃なのでした。

 

(おまけその3 おわり)


おまけの読み物

中江達夫のスキーブーツフィッティング