おまけの読み物その04 ブーツ選び 店頭においての試し履き

2007.11.27

自分にあった最良のあるいは適切なブーツの選択というのは、お店選びも含めて経験を積めば積むほど難しく感じることが多くなる、そう感じている方はいらっしゃいませんか。かくいう私自身何度も失敗を繰り返しながら右往左往してきた1人です。その過程を苦労したと感じていないことについてはどうなのよということはさておいて、結局は自分でフィッティングまでするようになってしまった、そんな私の初めてのブーツに対する接し方を紹介してみたいと思います。

理論的な話ではなく感覚的な話になると思いますが、共感できることがあれば取り入れてみてはいかがでしょうか。

 

私は初見のブーツに触れる機会があると、まず手にとってあらゆる角度から眺めます。そしてインナーを抜いて中を覗いて内側に手を突っ込んで触って外からも触ってシェルの厚さや硬さを確かめてフットベッドを取り出して、さらにインナーを触ってインソールも抜き出して・・・とあらゆるところを見て触って感じると共に、なぜこのブーツがこの形なのか、なぜこのような構造なのかに思いを馳せ、そこから設計した人の意図を類推し実際に自分が使ったらどういう感触が得られるのかを想像するのです。おそらくブーツの販売やフィッティングに関わる人間は皆同じことをすると思いますが、普通のお客様でそこまでしたり考えたりする方は少ないと思います。

本題はここからです。サイズが合えば履いてみますが、最初に足を通すその瞬間から3分ぐらいが勝負です。五感を研ぎ澄ますのです。バックルを締める音でさえ重要な情報です。そして見て触って感じたことと実際に履いて感じたことを比べながらその感触を脳裏に刻み込むのです。私の現在の感覚で言うと、履いた瞬間にほとんど総てが見通せないブーツは何分履いてもわからないといった感じです。3分と言ったのは、最初に感じたことを一つひとつ確かめるのに3分もあれば十分だということです。そしてその感じたことを客観的に語ることができることがブーツフィッターにとっては必要なことなのです。勿論こういう感じ方が出来る人はブーツフィッターだけであるわけではありません。3分の試し履きで少なくとも自分にあうかどうかぐらいはわかる人にはわかります。

ここが大事なところです。お客様は自分にあうかどうかということだけを主観として感じ取ればいいのです。客観的な言葉を使ってその性能を類推して語る必要など全然ありません。お客様の感じたことや今そこで起きている事実を客観的に捉え、さらに対象を広げてあの人にとってはどう、この人にとってはこうなるだろうと普遍化するのは店員やブーツフィッターの仕事です。

 

3月ぐらいになると様々な場所でスキーの試乗会が催されます。利用している方も多いでしょう。試乗会への臨み方は人それぞれだと思いますが、少なくとも自分にあうスキーかどうかの判断はリフト1本滑る間につけられないと何本滑っても一緒です。どうしても腑に落ちないところがある、何かおかしいと感じたことがあればもう一本ぐらい乗ってもいいでしょう。同じスキーで何本も乗っていると体が慣れてきてしまって結局わけがわからなくなります。

お客様がユーザー試乗会に参加する主な目的は自分にあったスキーを探すことだと思います。主催者側も別にそこでテストをしてくれと言っているわけではありません。評価の基準は自分にあうかあわないか、それだけで十分です。バイヤー向けの試乗会と違ってユーザー対象の試乗会では主催者側も下手に客観的なコメントよりも素直で主観的なコメントを多く集めることができたほうがありがたいはずです。私も試乗の際、メーカーやお店の人にコメントするときは主観的な感想を伝えます。「いい」「よくない」といった言葉も、主観的な感想を一言にまとめると、といったニュアンスです。

自分のスキー選びであればそこで完結します。客観的な言葉はそこからお互いに情報を共有したり語り合うときになって初めて必要になるものではないでしょうか。

自分にあいそうな物、必要と感じられる物、興味のある物を何本かチョイスしてリフト1本ずつ乗ってみる。そして最後に「コレだ」と感じられた物をもう1回だけ乗ってみる。試乗会はそういう利用の仕方が賢いと思います。

 

ブーツにおいてもこのような短い時間に意識を集中して試し履きをするやり方は、一般のお客様にとっても参考になるところがあるのではないでしょうか。むしろそういう試し履きの仕方を訓練することによって案外道具選びの失敗を少なくすることができるのではないかとも思うのです。道具選びにおいて、最初に感じる直感的なものというのは意外と的を得ているものです。

例えばバックルを締めて立ち上がった瞬間に自分がスキーをしている姿がイメージできる、そういう感覚的なものが実は一番大切なのです。20分も30分も椅子に座ったままで最後には足が痺れてわけわからなくなって「出直してくるわ」なんてことを繰り返していると本当にわけわからなくなります。厳しい言い方になりますが、こういう方は一見ブーツ選びに真剣に取り組んでいるように見えて、実は評価の基準がはっきりしていない方だと思います。

勿論直感的にあう・あわないと感じたことの理論的な裏づけ、つまり理屈が自分ですぐ理解できればそれに越したことはありません。しかし大方のお客様がわかるのはこのあたりまでだとも思いますし、私たちもそれ以上のことをお客様には求めてはいません。ここから先は主に提供する側の人間の仕事になります。お客様との話の中で必要な情報を提供し、そのブーツとお客様ご自身に対する理解を深めていただきながらより良い方策を一緒に考えていくことになります。

 

(おまけその4 おわり)


おまけの読み物

中江達夫のスキーブーツフィッティング