おまけの読み物その07 フォーミングインナーについて思うこと

2008.02.12

とあるお店で見かけたフォーミングの風景

 

その1

それは周りに何もない売り場の真ん中で唐突に始まった。

それらしい道具も台も掴まる所も何もないまっ平らな売り場のまんなかである。棚に陳列してあったブーツをそのまま持ってきただけである。インソールもそのまま、パディングもなしで、いきなり足を入れてフォーミング作業が始まったのである。通風を確認したかも怪しい。

とにかくいきなりボトル振りが始まったのである。温度管理もしていたようには見えない。液量のコントロールも何もなし。後はそのまま15分じっとしていろと言う。ボトルはずーっと繋ぎっ放し。ガス抜きもなし。圧に耐えながらも所在無げに視線をキョロキョロ彷徨わしているお客さん。ちょっと気を抜くとズルッとつま先がブレて開いてしまう。慌てて元の立ち位置に戻すお客さん。さり気なく正面に回って見てみると足がねじれてまともな姿勢で立っていないのがすぐわかる。

それ以上見ているのがいたたまれなくなってお店を後にした私であった。

 

その2

自称モーグラーだというお客さん。準備の手際を見るとお店の担当者は経験豊富な人のようだが、話を聞くとはなしに聞いているとお客さんは頑なにインソールを作るのは拒否しているようだ。

なんとなく胸騒ぎの予感・・・。

お客さんを台の上に乗せてスタンスを決めようとしたときだった。

「俺、モーグルやるんで閉脚で作って欲しいんですけど。」

エッ、と思わず振り向く私。一瞬凍りついた空気の中、目に入ってきたのは閉脚で膝と腰をクネクネくねらせているお客さんの姿であった。緊張した面持ちで事態を見守る私。

「わかりました。」とお店の人。そこでもう一度固まる私。

・・・・・・・・・

液が落ち着くまでのあいだ股関節がつりそうな格好でプルプルしていたお客さんであったが、一息入れた後に出来上がったブーツに再び足を入れてみる。履いてバックルを締めた途端にまたクネクネ踊りだす。そして曰く、

「小指が痛いです」 「わかりました。今度までにシェルだししておきますね。カントもそのとき合わせます。」と答えるお店の人。

もうなにがなんだか・・・。

 

今時フォーミングを扱うお店でこんなことはないとは思いますが、いずれも過去実際に目撃した話です。

フォーミングインナーを作る際のお店(人)選びは本当に大事だと思います。シェルやインソールが作れる人。そのうえで本当にフォーミングが必要かしっかり見極めてくれる人。違うことは違うとはっきり言ってきちんと説明してくれる人。と同時にお客様の立場になって会話が出来る人。経験が豊富でノウハウに長けている人。失敗したら失敗したで誤魔化さずに作り直してくれる人。こんなところですかねえ。

この業界はお客様が当たり前と思っていることでも、私たちからみるととんでもないことだったりすることがまだまだあります。誰もがお店の人の言うことやっていることをすべて理解する必要はありませんが、より高度な事を求めるのであればお客様自身もそれなりに経験を積む必要があるのも確かです。だからこそわからないことがあったら貪欲にお店の人に聞いて、怪しげな人なのかそれとも広い見識と深い洞察力と豊かな経験を持って言ってくれている人なのかを判断できる術を身に着けましょう。そういうお客様とのやり取りだってお店の人にとっては財産になりますし、そう思ってくれる人に付いていけばいいのかもしれません。

勿論お客様自身の価値観が変わったり経験を積んで初めてその人の言っていることがわかるようになることもあるかもしれません。それはそれで仕方のないことです。お店の人だって勉強してさらに経験を積んでいくと以前と違うことを言うようになるかもしれない。フォーミングの仕方だって以前とは随分変わってきています。これも仕方のないこと。

要は現時点での最良の選択ができればいいのですが、決して安い物ではありませんし作り直しの効かないものでもあります。結果オーライであればいいですが、勢いや何となく雰囲気でといった気持ちで作ってよくない結果がでた場合、投資がでかいだけにお客様自身がその後迷走する可能性があります。

 

で、ここからは私の素朴な疑問。

ここ何年かお店のホームページやそれに付随してブログや掲示板も公開するところが増えてきました。情報の質はピンキリですが、どのお店がどんなことを考えて、どんなことが得意で、どんなことをやっているのか手に取るようにわかるのですから、そのこと自体はユーザーの立場からするととてもありがたいことだと思います。

それはそれとしてひとつ気になることがあります。そんなにフォーミングを作ってもらう人は多いのか?ということです。

専門店のページを色々見て廻るともうフォーミングだらけです。作ってもらった人のコメントなどもフォーミングだらけです。確かにお店の技術や日々起きていることをアピールするのにフォーミングというのはわかりやすい。またそういうお店にそういうお客様がより集まってくるのも自然なことでしょうし、そういうコアなお客様だからこそネット上でも現実でも発言が目立つのも確かでしょう。スキーブーツだけに関するネタというのもそんなにいっぱいあるわけではないでしょうから、自然と目に付くだけかもしれない。

しかし私の周りを見渡してみると何か物凄い温度差のようなものを感じずにはいられないのです。自分の周りにいる人達でフォーミングインナーを使っている人がほとんどいないのです。周りにゴロゴロいる元は全日本クラスのレーサーだった人たちもこれで十分という顔をしている。

最近の上級者用のブーツは物凄くタイトになってきています。そのようなブーツではまず普通はフォーミングはいらないでしょうし、フォーミング液を思惑どおりに行き渡らせるだけの技術があればそもそもフィーミングに頼らなくても十分な結果が得られるはずとも思うのです。絶対にレーサーや上級者のフォーミング使用率は下がってきているはずなのです。

 

いったい誰にそんなに売れているのでしょうか。中級者からその少し上のレベル辺りのややゆったりモールドのブーツを使う層でしょうか。そのクラスのインナーも決して悪くは無いと思うのですけど、そもそもそのレベルでそんなに隙間を埋めないとだめなのかなあと。日本人の足はそんなに隙間を埋めなきゃならないほど華奢になってきているのか?(確かに若い人に目立つなあ・・・)。ゆったりとしたモールドと足当たりの柔らかいインナーではうまくなれないってこともないですよねえ。みんなそんなに敏感な物ばかり望んでいるのでしょうか。

いったいどれぐらいの数が流通しているのでしょう。その総数と幾つかの有名店におけるパーセンテージなんかも機会があれば聞いてみたいものです。

 

(おまけその7 おわり)


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